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『技術翻訳のテクニック』富井 篤 (著)

こんばんは。
金曜日は、翻訳に関する本です。

「英文和訳」と「英日翻訳」の違い

学生時代、英語の試験であった「英文和訳」。英文和訳が好きだったり得意だったりしたため、翻訳者を目指した方もいらっしゃいますよね。または、英文和訳が得意だった人に「自分にもできる」と言われ、歯がゆい思いをしたことがある人もいるかもしれません。

では、「英文和訳」と「英日翻訳」とはどう違うのか。ありそうであまりない、この点をしっかり言語化したのが本書です。

一般的な日本人の中には,“英和翻訳はやさしい”,“英和翻訳なら自分にもできる”と思っている人もけっこう多いのではないだろうか.(中略)しかし,英和翻訳は決してそれほどやさしいものではない.“英和翻訳が難しいと感ずるようになったらプロの翻訳者に近づいた証拠”というのが,筆者の長年の翻訳経験から得た結論である。

タイトルに「技術翻訳」とあるものの、ジャンルを問わず英日翻訳をされている方、目指している方に普遍的に参考になる情報が沢山。本日は、そんな『技術翻訳のテクニック』を紹介します。

30年以上オススメされてきた、技術翻訳の定番指南書

本書が発行されたのは1993年。文中でも「現在はワープロが普及し」とあります(ワープロ!)。ですが、30年たった今も、技術・実務翻訳の入門講座では推奨されることが多い一冊です。

「英文和訳」でなく、「商品となる翻訳」を生み出すために、英日翻訳で十分注意しないといけない10のポイントを取り上げています。

1.無生物主語
2.態
3.品詞の変換、特に副詞
4.前置詞
5.冠詞
6.副詞的用法のto不定詞
7.省略形
8.セミコロン
9.動詞から転じた名詞
10.訳出しない語

それぞれについて、細かくパターン分けし、それぞれのパターンに合った翻訳アプローチを紹介しています。なんと、無生物主語だけで60ページ! 例文も多く、理論がスッと入ってきます。

例文は技術系の内容ですが、構文理解を主軸にしているのもあってか、技術理解がないと歯が立たないというほどではありません。技術系のボキャブラリーを増やすチャンスでもありますし、ぜひ技術系以外の方にも読んでほしいなと思います。

いつの時代も、機械の脅威はある

本書では末尾に料金形態や翻訳インフラなど、翻訳業界を取り巻く環境について触れています。特に印象に残ったのが機械翻訳について。現在の機械翻訳と翻訳支援ツールをまとめて「機械翻訳」とし、下記のように書かれています。

こと英語に関する翻訳は、増えこそすれ減ることは絶対にあり得ない.翻訳機械やパソコン+翻訳ソフトウェアの進歩により若干それらに取って替わられる部分もなくはないが,その分,潜在需要が喚起されるであろうといわれている.

しかし,また,それだけに,機械翻訳によって浸食される領分を考えると,B級,C級翻訳者の活躍の場はだんだん少なくなっていくであろうことも,否定できない事実である.やがては,機械翻訳のできない部分ができるようなA級翻訳者のみが生き残れる時代が来るのかもしれない.その時にそなえて,少なくとも,われわれ日本人の守備範囲である英和翻訳だけはしっかり守れるようにならなければいけない.

「いや、30年前からコレ言ってたんかい!」と思わずツッコんでしまいました。

本書が発売されて数年後にはワープロからパソコンに。当時パソコン導入を渋った翻訳者もいたと聞いたことがあります。一方で、切り替えができた翻訳者は調べ物の多くをパソコンからのネット検索で行えるように。さらに遡れば、手書き翻訳からワープロへの移行でつまずいた翻訳者もいれば、悪筆がカバーされるとウキウキで乗り換えた翻訳者もいたかもしれません。

機械の進歩に嫌悪感や危機感を抱きすぎず、むしろ頼れる相棒にできるかどうかも「英語好き」から「翻訳者」、さらには「A級翻訳者」になれるかどうかのポイントなのかも? 30年前に発信されたメッセージからそんなことも思ったのでした。

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この記事を書いた人

インハウスで産業翻訳の翻訳、チェック、ディレクションに従事。
フリーランスでの映像翻訳と読書ブログ運営とのマルチキャリアを模索中です。
観劇と、ヨガ・ピラティスが好き。

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