MENU

【読書記録68】『映画現場のプロたちが教える 面白さが100倍になる鑑賞術』

こんばんは。
土曜日は、趣味に関する本や雑学収集本です。

翻訳者は、一番深く鑑賞する観客

映画を見るのは、映画を作るのと同様、本質的にはとても大変な作業なのです。知識をフル稼働させながら作品に向かい合い、それでいてしっかりと喜怒哀楽は殺さずに楽しむのが映画鑑賞です。そのうえで、映画のあらすじを正しく読み取りつつ、他人の真似にはならない解釈を行っていきます。(中略)
映画鑑賞とは、意識と無意識のせめぎ合いです。意識だけに任せてしまうと感情的に楽しめなくなりますし、無意識だけに委ねていると独りよがりな解釈に走ってしまいがちです。「そんなこと気にしていられない」と思うなら、それもまた1つの映画との接し方でしょう。しかし、もしも「もっと深く映画を見てみたい」と思うのなら、広く知識を集めて鑑賞時の参考にするような見方も試してみてください。

産業翻訳の世界において「翻訳者は一番の読者」と言われることがあります。ソース言語での原稿を解釈してターゲット言語にてその解釈を表現するためには、一般読者よりも深みかつ包括的な読み込みが求められるといった背景から生まれたであろう言葉だと思っています。

同じように、エンタメ翻訳においても「翻訳者は一番の観客」として作品理解を行いたい。そこで、本日は映画ライターの著者による『映画現場のプロたちが教える 面白さが100倍になる鑑賞術』を紹介します。Kindle Unlimitedの読み放題タイトルです(執筆時点)。

「100倍」の根拠こそありませんが(笑)、確かに映画鑑賞のポイントがたくさんな一冊でした。

映画現場のプロたちが教える「作品解釈のコツ」

翻訳学校の限られた授業では伝えづらいけど重要な点として「作品のタッチ」が紹介されています。

作品を理解するうえで、とても大切なのが「タッチ」です。要するに「作風」のことですね。映画にはそれぞれのタッチがあります。ポジティブなメッセージのある作品、観客を暗く沈ませる作品、癒やしてくれる作品など、目的はさまざまです。タッチを誤解してしまうと、作品の理解に支障をきたします。
よく、ジャンルとタッチを混同している人がいます。レンタルビデオ店に行くと、「コメディ」とか「アクション」とかで棚が分けられていますよね。あれはあくまでジャンルです。(中略)タッチは千差万別なので、「これはコメディだから明るい映画なのだ」と思い込んでしまうと、解釈を180度間違ってしまいます。

映像翻訳者の作品リストはジャンルで記載するようですが、自分の手元では「タッチ」についても実績を分析するといいかもしれませんね。

「あらすじや台詞にばかりにとらわれ過ぎないように」というのも、つい直接翻訳する台詞にばかり気が向きがちな翻訳者には耳が痛いけど重要な指摘。録音技師の方のインタビューも示唆的でした。

映画の中って、台詞以外の部分の要素が大半なんですよね。台詞以外はノイズのように思われがちですけど。ノイズの部分に耳を傾けてみると、映画はより面白くなると思います。

そして、「作り物らしさ」「わざとらしさ」がない作品こそ素晴らしい映画だとされるなかで、それらは作品が置かれた物語や世界観において都度レベルを設定するといった話も、翻訳者にとってはワードチョイスの参考になりそうです。

オーバーアクトや大げさな効果が「わざとらしさ」につながるとは限らないのが、映画の面白いところです。映画によって求められるリアリティやシリアスさの度合いは異なります。「この物語や世界観なら、これくらいのリアリティで映像を作っていこう」と的確に判断できるのが、優れたクリエイターだといえます。

映画評論を読むことのメリット

誰かの意見を聞いて「やはりいい映画なのだ」と感覚を補強しようとは思いません。それよりも、ほかの人がどんな見方でどう作品を語るかを知りたいのです。そのことによって、自分1人ではたどり着けない視点を得られると信じていますSNSなどのコミュニティでは似た傾向の語り手が集まるため、まったく違う見方をしている人間が目に入りにくくなるのではないでしょうか。そう、優れた評論家とは凝り固まった視点に新しい光を差し込んでくれる存在なのです。

翻訳学校で、「作品への評論が出ていれば翻訳作業の前に読むといい」と教えてくださった先生の言葉がようやく腑に落ちました(そして、改めて大事な教えだったのだと感謝です!)。

本書では具体的な作品の演出や絵づくりへの言及も多く、作品を知っている方は楽しく読めると思います。THE RIVERの中谷編集長のインタビューも、海外文化の輸入に携わる翻訳者には響くところがたくさん(ひよっこブロガーとしても大変刺激を受けました!)。

映像翻訳者さんや志望者さんはもちろん、映画好きな翻訳者さんにもオススメな一冊でした。

***

本書が気になった方は、こちらから購入できます。
投稿時点では、AmazonではKindle Unlimitedの読み放題タイトルです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

企業にて、産業翻訳の翻訳、チェック、ディレクションに従事。
フリーランスにて、映像翻訳と読書ブログ運営。
観劇と、ヨガ・ピラティスが好き。

(このサイトはアフィリエイト広告を掲載しています。)

コメント

コメントする

目次