こんばんは。
金曜日は、翻訳に関する本です。
「翻訳学校にとっては、読んでほしくない本」?
随所で、「労多く功少ない翻訳の仕事」「翻訳者とはあこがれてなるようなものではない」などと、翻訳業の実態を詳らかにし「翻訳学校にとっては、読んでほしくない本」とも言われ、それでも苦労の先に見える翻訳の魅力も十分に伝わってくる一冊。
本日は、真の翻訳者の心得を説いた必読本、『翻訳とは何か: 職業としての翻訳』を紹介します。
生き残る翻訳とは
本書の冒頭では、同じドイツ語の哲学書を日本語訳した金子訳と長谷川訳を比べています。そこで、訳注の豊富さから原著の内容は理解していたと評価はしつつも、「難解さ」が本の価値を決める風潮があった1960年代の、原書を読む上での教科書ガイド的に訳文を使用する読者を想定した金子訳のいわゆる直訳スタイルについて、今後受け入れられなくなると解説しています。
一方で、学校の英語教育における「英文和訳」は、金子訳のような「原語と訳語の一対一対応」の回路を頭の中に作ることだとし、「英文和訳」と「翻訳」の違いを整理しています。
翻訳の目的は、原文を読まない読者に原文の意図や意味を伝えることである。(中略)
英文和訳では、原文を読んで、訳す。翻訳では、原文を読んで、理解し解釈し、その内容を日本語で執筆する。英文和訳では英語が中心であり、翻訳では日本語での執筆が中心である。 原文の意味と意図を理解し、それを日本語で表現する作業は簡単ではない。胃が痛み、頭をかきむしる作業である。ところがこの作業に苦闘しているとき、じつに簡単な抜け道が用意されている。英文和訳の技術を使えば、原文の意味をじっくり考えなくても、原文の語を一対一で対応した訳語に置き換えるだけで訳文ができあがる道が用意されているのである。
本書は2001年の発行ですが、20年以上たった今でも「英文和訳で足りる翻訳案件」は存在しますね。特に、日本人は生真面目だからか、エージェントやクライアントが原文と訳文を突き合わせて確認しやすいチェッカーフレンドリーな訳文が求められる案件も多い気がします。
ただし、こういった英文和訳の案件こそが、AI翻訳によって減っていく仕事なのではとも思います。改めて、AI時代に生き残る翻訳の秘訣も本書から学び取ることができるのではないでしょうか。
生き残る翻訳者とは
英文和訳への逃げや甘えを断ち切り、「英文和訳案件はAI翻訳が引き受けてくれる」という発想で、真の翻訳を追求し、そこから得られる下記のような魅力や醍醐味を味わえるよう修行を続けられるか。AIの時代、「生き残る翻訳者」は「生き残る決意と覚悟を決めた翻訳者」なのかもしれませんね。
大量の翻訳を何年も続けていれば、原文の表面を手掛かりに、表面の意味はもちろん、裏の意味、裏の裏の意味も読み取れるようになる。原文のリズムや細かいニュアンスを読む取れるようになる。(中略)原著者になりきって、原著者が日本語で書くとすればこう書くだろうと思える訳文が流れるように自然にでてくるようになることがある。翻訳者にとっては至福のときである。一度、この感覚を味わえば、翻訳の魅力に取りつかれる。労多く功少ない翻訳の仕事を続けるのは、この法悦感と陶酔感を味わえるからでもある。
地道な修行の一つ。紙の書籍を読むときは、ダイソーの透明で細いフセンが大活躍します。記事には反映できなかったけど、翻訳者なら知っておきたい翻訳の歴史に関する情報も満載なのでオススメです!
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