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【読書記録101】『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』

こんばんは。
月曜日は、英語や日本語に関する本です。

小学生の素朴な疑問にこそ、言葉の本質がある

大人にとって「ことば」という存在は身近すぎて、疑問にすら思わないかもしれませんが、小学生たちはまだまだ「ことば」について学んでいる最中。大人だと遠慮してしまう質問も、子どもたちは容赦なく先生に投げつけます。しかし、そんな疑問や子どもならではの発想にこそ、「ことば」の本質が潜んでいます。

本日は、『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』を紹介します。言語学者、さらに具体的には「声の仕組み」を研究する音声学者である著者が、実際に母校の小学校で行った「ことばの特別授業」をベースに書かれた一冊です。

授業の様子をそのまま追体験できる実況ページと、内容を少し深掘りした補足説明ページとで構成されています。補足だけでなく授業パートにも、「なるほど!」「へえ!」と思わず声が出そうな話題が盛りだくさん。子どもにも伝わるように、そして飽きずに読めるようにとの工夫は、言語学になじみが薄い大人も楽しみながら学べる入門書でもありました。

「にせたぬきじる」と「にせだぬきじる」の違い

私がまず引き込まれたのは、序盤のツカミとして著者の川原先生が子どもたちに投げかけた「にせたぬきじる」と「にせだぬきじる」の話でした。

川原 「にせぬきじる」という表現と「にせぬきじる」という表現をゆっくり考えてみて。この二つの意味の違いは感じられる?
みあ 「にせたぬきじる」というのは、「たぬきじる」に「にせ」を付けたもので、「にせだぬきじる」っていうのは「だぬき」に「にせ」を付けたもの。
川原 そうだね、「だぬき」まあ「たぬき」だね。つまり、「にせたぬきじる」で、にせものなのは何?
   ――たぬきじる!

「にせたぬきじる」も「にせだぬきじる」も、これまでの人生で出会ったことはなく、これからもきっと出会わないであろう謎の汁物(たぶん)。

それでも、自分も子どもたちもしっかりと意味の違いを感じ取れます。特別授業では、濁点の有無で意味が変わる不思議を例に、言語学の面白さを伝えていました。補足説明のページでは、その仕組みを詳しく解説しています。

まず、日本語では二つの単語をくっつけて新しい単語をつくる時に、二番目の先頭の音に付く場合があります。これを「連濁」と呼びます。

あお+そら→あおら(青空)のような現象が、「連濁」。

連濁が起こるかどうかはいろいろな要因に左右されるのですが、二番目の単語がすでに濁音を含む場合は連濁が起きません。これを「ライマンの法則」といいます。

ひやし+そば→ひやしそば(冷やし蕎麦)、よこ+はば→よこはば(横幅)……確かに! これを踏まえて「にせたぬきじる」と「にせだぬきじる」の違いに戻ると――

「にせだぬきじる」は「にせ」の「たぬき」が入っている「しる」でした。「にせ」なのは「たぬき」だから、「にせ」と「たぬき」をくっつけると、連濁が起こって「にせだぬき」になります。これに「しる」をくっつけると、まだ連濁が起こって「にせだぬきじる」となるわけです。

では「にせたぬきじる」はどうでしょうか。 こちらは「にせ」の「たぬきのしる」でした。ですから今度は、「たぬき」と「しる」をくっつけると、連濁が起こって「たぬきじる」ができあがります。次に、「にせ」に「たぬきじる」をくっつけると、「たぬきじる」にはすでに濁音が含まれていますから、ライマンの法則により連濁が阻止されます。よって「にせたぬきじる」が生まれます。

こういう、自分の中の言語感覚を言語化していく話、大好物です!

音声学の知識は翻訳にも活きる

本書では他にも、「ポケモンは強いキャラクターほど濁点がつく」「プリキュアは両唇音で始まる名前が多い」など、身近な言葉やキャラクターを例に、音声学の視点から解説しています。タイトルの「なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 」も、ぜひ本書を手に取ってご確認ください。

こうした「音から受けるイメージ」は、翻訳のワードチョイスにも応用できそう。キャラクターの名前を訳すときや、強弱・明暗といったニュアンスをどう伝えるか考えるとき、音の響きを意識することで、より伝わりやすく・印象に残る表現が選べるかもしれません。

また、音声学の本も読んでいこう!と決意表明して、本日はここまで。

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この記事を書いた人

企業にて、産業翻訳の翻訳、チェック、ディレクションに従事。
フリーランスにて、映像翻訳と読書ブログ運営。
観劇と、ヨガ・ピラティスが好き。

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