こんばんは。
水曜日は、小説、エッセイ、漫画本です。
破滅的な名作ロマン主義文学にチャレンジ
本日は、『マノン・レスコー』を紹介します。先週投稿した『名作なんか、こわくない』に触発され、同書で取り上げられていた本作を読んでみました。使用したのは、Kindle Unlimitedの読み放題対象になっている光文社古典新訳文庫版です。

18世紀フランスの作家アベ・プレヴォーによる自伝的小説集『ある貴族の回想と冒険』の第7巻にあたります。「ある貴族」が、主人公シュヴァリエ・デ・グリュと、美しく魅力的な少女マノンに出会い、後日ふたりの破滅的な恋愛物語をシュヴァリエ本人の語りを聞くという形式です。
「ファム・ファタール」がわからない!
『マノン・レスコー』は、「ファム・ファタール(運命の女)」という概念を文学で初めて描いた作品とも言われています。「男を破滅に導く女」とも訳されますが、作中ではマノンの美しさが具体的に描写されることはありません。
彼女があまりに魅力的に見えたので、それまで異性のことなど考えたこともなく、若い娘に少しの注意も払ったことがなかった私なのに、そしてだれからも賢さと自制心をほめられていた私なのに、たちまちのうちに恋の炎を燃え上がらせ、我を忘れてしまったのです。
物語は基本的に主人公デ・グリューの語りで進むため、読者は彼の視点から、彼の“マノン像”を通して彼女を追いかけていくことになります。ですが……とにかく私には、マノンの考えが全然わかりません!
本作を読む前は「ファム・ファタール」と聞いて、大人びた色気のある女性を想像していました。ところが、マノンはどちらかといえば無邪気で、どこか無垢なまま、自然体で男性を振り回し、破滅に追い込んでいきます。
たとえば、贅沢を失うのが嫌で富豪のもとに行く一方で、デ・グリューへの愛も手放さない。さらにはなぜか別の美少女を“お詫びの品”として彼に送りつけるという、不可解すぎる行動も。
見ればそれはマノンの筆跡でした。手紙に記されていた内容はおよそ以下のとおりです。
G・Mの息子は予想をはるかに超える礼儀正しさと気前のよさでマノンを迎え、贈り物ぜめにしました。女王にでもなったような気持ちを彼女に味わわせたのです。でもそんな新たな栄華に包まれながらも自分はあなたを忘れてはいない、ただG・Mの息子に今晩、コメディー座に連れていってくれと頼んでも承知しなかったので、あなたに会う喜びは別の日に延期することにする。この知らせがあなたを苦しませるだろうと予想がつくので、それを少しでも慰めるためにパリでもっとも美しい娘のひとりをあなたにお世話する方法を見つけた。その娘に手紙を託すことにする。そういって最後には「あなたの忠実な恋人、マノン・レスコー」と署名してありました。
……わからない! おそらく本当に悪気なく、本気で「あなたの忠実な恋人」と書いているのが、逆に恐ろしい。他にも「なぜそうなるの?」という行動の連続。マノンだけでなく、彼女を追い続けるデ・グリューもまったく理解できず、読んでいて共感できるのは、デ・グリューを止めようとする父親や友人ティベールだけでした。
それでも、そんな理不尽で破滅的な物語に最後まで引き込まれてしまったのは、やっぱりこの作品に何か不思議な吸引力があるからなのだと思います。共感はできない。でも目が離せない。この得体の知れなさこそ「ファム・ファタール」の本質なのかもしれません。
「ファム・ファタール」願望はわかないものの(そもそも無理だよというツッコミはなしでね)、今後は他の作品も読んで「ファム・ファタールとは何か」をもっと言語化したいと思いました。
「訳注たっぷり本」には電子書籍
光文社古典新訳文庫の『マノン・レスコー』は、訳注や解説も多めです。読者としては訳注を読まなくても作品を楽しめれば十分ですが、ジャンルは違えど翻訳を仕事にしている身としては、「なぜこの訳になったのか」「どのような調べ物を経てこの表現が選ばれたのか」などは気になるところ。雑学的な知識の収集も兼ねて、また翻訳者への敬意も込めて、訳注にはなるべく目を通すようにしています。
また、訳注の多い古典文学こそ、その場で訳注を表示させることができるので、電子書籍が快適ですね。私が紙の本から電子書籍に移行した理由のひとつでもあります。
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