こんばんは。
金曜日は、翻訳に関する本です。
日々、書くことをあきらめなかった
私がやってきたことは、シンプルなんです。
・受けた仕事を実直にやること
・日々書くことをあきらめなかったこと
これだけです。
真摯に、
みんなを笑わせたい、
文章がうまくなりたい、
翻訳がうまくなりたい、
と地道に取り組んでいたら、運命のほうが開けてくれて、小さな経験がつながって、いまがある。それだけなのです。でも、この三つの取り組みの一つでも欠けていたら、今はなかったでしょう。
本日は、翻訳家・エッセイストの村井理子さんによるエッセイ集『エヴリシング・ワークス・アウト 訳して、書いて、楽しんで』のレビューです。
翻訳のみならずエッセイでも活躍されている村井さんは、ご自身いわく「元祖インターネット世代」。ブログが普及する前からメルマガで文章を発信し、HTMLを手作業でいじってウェブサイト「フガフガ・ラボ」に記事を投稿していたそうです。
ただひとつだけ言えるのは、「休まず文章を書いて発表していた」ということです。それが結果として、いまの私につながっています。
書き続けてきた村井さんが語る、翻訳の仕事やエッセイの仕事。具体的な手法はもちろん、「楽しんで」という生き方も印象的な一冊でした。
非文字情報が翻訳の助けになる
本書では、村井さんの日々のスケジュールやデスク環境に加え、翻訳作業についても詳しく語られています。私自身は産業翻訳と映像翻訳をしていますが、出版翻訳における村井さんの手法には参考になる点が多くありました。
最後まで読んでから翻訳に着手するというこだわりは、私にはありません。 というのも、依頼があるような本は、すでにそれなりに売れていたり、話題になっていたりするからです。こうした本はリサーチすれば大まかな内容が把握できます。
(中略)
ある程度のリサーチ(準備)を事前に固めてやってしまって、あとは冒頭から一気に訳していくのが私のスタイルです。
リサーチには、本の分析サイト、メディアの書評、インターネット書店のレビュー、著者のインタビューなどを活用されているとのこと。出版以外の翻訳でも、応用できそうなアプローチですよね。
特に、YouTubeなどで著者や題材となった人物の顔や声に触れるのは、本当に重要だと私も思います! 身長や声の高さなど、文字からは得られない情報に触れることで、訳文のトーンも変わってくるんですよね。ミリ単位の違いかもですが、大きな違いですし、そういった点にもこだわってこそ、楽しさが生まれます。
さらには、Audibleも今や“翻訳の武器”とされているそうです。
アメリカはAudibleの市場が大きく、私が訳す本のほとんどはAudible版も出ています。アメリカのAudibleは著者本人が読むこともよくあります。(中略)
Audibleで聴くと感情の起伏がよくわかります。
以前、寝ながら原書のAudibleを聴いていて、飛び起きたことがありました。「いま、笑ってた!」「そうか、笑うシーンなんだ」と、声の抑揚でわかったのです。あわてて訳文と原文のファイルを立ち上げて、その箇所を確認しました。
映像翻訳の場合、原作本をAudibleで聴くのもありかも!
「訳す」と「書く」を楽しめていますか?
タイトルに「訳して、書いて、楽しんで」とあるように、本書は随所で「楽しむこと」「健やかに日々を過ごすこと」にも触れています。
私の場合は、出版翻訳の依頼を、いま現在のように年に何冊も頂くようになるとは、夢にも思っていませんでしたし、それを目指す努力もしていませんでした。だからこそ、焦ったりもせず、焦らないから売りこみをするなどの積極的な行動をしなかったし、それでかえって時間がかかったとは言えるかもしれません。
でも、いま翻訳家を目指す人に何か言えるとしたら、
病まずに楽しく生きてほしい
ということです。翻訳家になりたいという夢のために病むような状況には陥らないでほしい。自分なりのバランスを保ってほしいなと思います。人生は、ふとした時に転機が訪れます。焦らずいきましょう。
「~ひと筋」に重きがおかれやすい日本ですが、収入源について「複数の柱」を持つことの重要さも語られています。マルチキャリアを模索中の身としては、かなり励まされました。
どんな職種でも、どんな人でもそうではないでしょうか。超売れっ子でもないかぎり、明日どうなるかはわかりません。そういう意味で考えれば、ほんの一部の天才を除けば、誰でもリスクを背負って暮らしているのです。だからこそ、自分を支える柱が1本脆くなったり、崩れたりしたときのためにも、2本目、3本目の柱を持っておくことは大切です。
だって健やかに生きていきたいじゃないですか。自分の身を削ってまでストイックになる必要はないし、翻訳だけが純粋に美しい仕事ではありません。いろんな仕事をやっていいのでは? 私は常にそう考えています。
「翻訳家一本で稼いでいます」と言うのはかっこいいけれど、その好きな翻訳を支えるために、別のことをしたからといって、それがかっこ悪いことではありません。
翻訳という目標に対して、ストイックになりすぎることの危うさに気づけますし、「自分は楽しんで翻訳がしたかったんだ」「こういったところが翻訳の楽しいところなんだ」と、あらためて思い出させてくれる一冊でした。
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