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【読書記録141】『浮世女房洒落日記』

こんばんは。
水曜日は、小説、エッセイ、漫画本です。

年末に読みたい、1年分の日記作品

日記形式の文章が好きです。1日単位で見ると分量も短いので、少しずつでも読み進められるし、リラックスして読書したいときによく選んでいます。美容院では毎月、ファッション誌『Oggi』でジェーン・スーさんのマンスリー記録「ジェーン・スーの徒然なる日々」を読むのも最近の楽しみの一つです。

特に師走になると1年分の日記が1冊の本になった本を読みたくなります。
そこで本日は、木内昇さんの『浮世女房洒落日記』を紹介します。2008年出版の作品ですが、今年2025年8月に新装版の単行本が発売されました。

木内さんの作品は以前にも『占』と『みちくさ道中』を紹介しました。
『占』は大正末期から昭和の時代を舞台に“女性と占い”を描いた短編集、『みちくさ道中』は木内さん初のエッセイ集。そして今回の『浮世女房洒落日記』は、江戸時代の小間物屋の女房を主人公にした、日記風の小説です。

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江戸時代のおかみさんがつづる、1年分の日記

『浮世女房洒落日記』は、江戸時代の小間物屋の女房・お葛(おかつ)が書いた、「一月一日」から「十二月三十日」までの1年分の日記という設定で、読者はお葛さんの視点を通して、彼女の身の回りの出来事を追っていきます。

(改めて日付を確認してみて気づいたのですが、江戸時代の1年は12月30日まででしたね!)

日記だからって朝起きたとこから書くこたぁないか。文も妙に気取ってるじゃないの。嫌だねぇ、もう面倒になってきた。でもここで短気を起こしちゃいけないよ。今年は日記をつけるんだ、つて去年の暮れに決めたのはこの私だ。今日くらい、きちんと書かなきゃね。さて、続き。

お葛さんは27歳。現代なら若者ですが、既に結婚10年目で子どもを育てています。自他共に認める「おかみさん」ポジションです。

嫁に来ましてもう十年。当年とって二十七の年増。だのに未だ娘気分甚だし、と。お、いつもの調子が出てきたよ。

お気楽な亭主にイライラし、ひとの恋路にやきもきする。オシャレや美容も頑張りたいけど、今日も甘い物を食べちゃった……。そんな日常のあれこれを、軽やかな文体でつづった日記は、どこか可笑しくて、ときに声をあげて笑ってしまうことも。読後感がとてもいい一冊でした。

自分で選び、引き受ける——お葛さんが教えてくれること

16歳の「さえちゃん」への恋愛面でのお小言など、つい“お説教口調”になってしまう場面も多いのですが、不思議と憎めないお葛さん。どこか爽やかさがあるのは、お葛さんのなかに「覚悟」や「達観」があるからかもしれません。

私は別に、選んで選んで亭主のもとに嫁いだわけじゃない。半分は親同士の取り決めだ。この町に住むようになったのだってその流れだし、商売だってたまたま亭主がやっていたから。そう考えると、自分で決めて選んだことなんて、ひとつもないかもしれない。だけどね、なんにも決めちゃこなかったけど、自分の生き様はぜーんぶ責任もって引き受けようって覚悟だけは、ずっと前から決めてんだ。

「お葛さんの時代より、現代のほうが自分で決められることが多いのに、自分は誰かのせいにしていないだろうか」と反省しつつ、「自分で責任を引き受けることで、お葛さんのように日々を楽しめるのかもしれない」と気持ちが軽くなります。

そんなお葛さんの1年の締めくくりを引用しつつ、今年の残り1か月に思いをはせて、本日はここまで。

 さて、今年はどんな年だったろう。いいことも悪いこともあった、うまくいったことも、失敗したことも、まったく変わらないこともあれば、大きな変わり目もあった……やっぱりひと言で言うのは難しいねぇ。だいたい一年をひと言で言い切ろうって根性が野暮じゃないの。だって、いろいろあるのが暮らしてくってことだもの。一年の総まとめ、こんな感想でいいのかね。まあ、いいか。他に言いようもないものね。
 あ、除夜の鐘が鳴り出した。何度聞いても厳かないい音だ。この百八つの音で身を清めて、来る年に気持ちを備えて、亭主を待たずにそろそろ寝よう。

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この記事を書いた人

企業にて、産業翻訳の翻訳、チェック、ディレクションに従事。
フリーランスにて、映像翻訳と読書ブログ運営。
観劇と、ヨガ・ピラティスが好き。

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