こんばんは。
金曜日は、翻訳に関する本です。
「世界中の翻訳者に愛される場所」って、どこ?
ドイツ文学者で翻訳者でもある松永美穂(まつなが・みほ)さんの著書、『世界中の翻訳者に愛される場所』。翻訳者なら思わず「どこ?」と手に取りたくなるタイトルですね。
その“正解”は、ドイツ・シュトラーレンにある、「ヨーロッパ翻訳者コレギウム(Europäisches Übersetzer-Kollegium)」という、翻訳者のための「トランスレーター・イン・レジデンス」といえる場所でした。
施設公式サイト(https://www.euk-straelen.de)
「そろそろシュトラーレンに行ってみよう」とわたしは考え始めていた。インターネットで情報を検索し、翻訳者たちが話題にしていたのは「ヨーロッパ翻訳者コレギウム」という施設であることを確認した。その施設は、年間数百人の翻訳者を世界各国から受け入れ、仕事部屋や奨学金を提供している。あるいは、翻訳者を目指す人のためのセミナー合宿も行っている。さらに、有名な著者の本が世界各国で翻訳されることになった場合、その本の著者と翻訳者たちを招いて、あらかじめ著者に質問できるような機会を設けている。翻訳者をリスペクトし、文化における翻訳の重要性に光を当てるために設立された施設だ。
世界中から翻訳者が集まり、各自の作品に向き合いながらときに交流し、シュトラーレンでの滞在そのものも楽しむ――。そんな“翻訳者の家”について、著者が自らの体験を通してつづった一冊です。
同業者が集う「翻訳者の家」の魅力
「翻訳者の家」の滞在資格は、すでに二冊以上の翻訳出版の経験があること。そして、現在翻訳中の本があり、出版できる見通しがあること(出版社との契約書もしくは覚え書きを示す必要がある)。
「出版翻訳者だけかあ……」と少し憂鬱になるほど、「翻訳者の家」は魅力的な場所。近くに同業者がいることで生まれる安心感やほどよい緊張感、充実した図書室――「これは本当に集中して翻訳できそう!」と思いながら読み進めていました。
滞在中にここで翻訳した作品がその後自国で出版された場合、一冊を献呈する決まりになっている。ということは、「翻訳者の家」が利用されればされるほど、どんどん本が送られてくることになる。
そんな図書室、素敵……! ピアノもある!

(写真は公式サイトからお借りしました。
https://www.euk-straelen.de/uebersetzerhaus/bibliothek)
シュトラーレンでの生活も魅力的で、私が特に素敵だなと思ったのは本屋さんのエピソードです。
シュトラーレンの雌牛通りと交差するフェンロ―通りには、小さいけれど雰囲気のいい書店がある。わたしはこのお店で何度も、本を取り寄せてもらった。「ああ、あそこに滞在している翻訳者さんだね」という感じで、にこにこしながら注文を受け付けてくれる。いい本屋さんがあると、生活が楽しくなってくる。
売りこみ先や同業者さん以外から「ああ、翻訳者さんだね」と声をかけてもらえる――そんな経験、日本ではほとんどないですよね。翻訳者という職業が自然に認識されている環境が羨ましくなりました。
日本にも欲しい! 「翻訳者の家」
読めば読むほど、日本にもこんな施設があったらと願ってしまう「翻訳者の家」。
「映像翻訳や産業翻訳でもできないかな」「1年中オープンしているのは大変だからまずは年に数か月とか」「翻訳者仲間で時期をあわせて“翻訳合宿”して、ついでに旅行できたら最高!」など、読みながら妄想がどんどん広がっていきました。
「日本の空き家を活用できないか?」という著者・松永さんのあとがきを引用しつつ、さらに妄想を膨らませながら、本日はここまで。
日本には合計で九百万戸もの空き家が存在する……というニュースを見た。そのなかの数戸でも、翻訳者レジデンスとして生まれ変わらせることはできないだろうか? 文化や言葉の橋渡しをする翻訳者の存在を可視化し、地味だけど大切な仕事として、翻訳を認知してもらえる機会が増えればと願っている。
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