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【読書記録147】『三頭の蝶の道』

こんばんは。
水曜日は、小説・エッセイ・漫画本の日です。

Audibleで聴いて、思わず本も購入

本日の一冊は、山田詠美さんのデビュー40周年記念作『三頭の蝶の道』です。

ドラマや映画で見かけると嬉しくなってしまう女優・高畑淳子さんが朗読されていると知り、Audibleで聴き始めた本書。普段はAudibleで聴ける作品を購入することはないのですが、第一章が終わる前に「これは本も買おう!」と電子書籍をポチってしまいました。

言葉を紡ぐ人の人を見る目とか感じ方って、より深いっていうか、欲があるというか、もっと傷つけてやろうとか。

女優さんもそういうところがありますけど、似た業の深さを感じますよね。 そこが面白いところだと思います。

高畑さんがインタビューで言われているような“業”は、はたして翻訳者にもあるのでしょうか。少なくとも、そうした業に惹かれてしまう性質は自分にもあるなと思いながら、どんどん夢中になって読み進めた一冊でした。

蝶は、蝶にしか見えない道を行く

「あなた、蝶は、一頭、二頭と数えるのよ」
「え? そうなんですか?」
「そう。あの蝶たちは、いつも、同じ道を舞いながら行くのよ。蝶にしか見えない通り道。そういうの、蝶の道と呼ぶの」

本作の「三頭の蝶」が指すのは、三人の女性作家。大正の終わりから昭和の始めにかけて生まれ、「男流作家」なんて言葉がないなかで「女流作家」と呼ばれていた女性の作家たちです。

河合理智子(かわい りちこ)――モデルは河野多恵子さん
高柳るり子(たかやなぎ るりこ)――モデルは大庭みな子さん
森羅万里(しんら ばんり)――モデルは瀬戸内寂聴さん

実際に読みながらモデルを当てることができたのは森羅先生の寂聴さんのみでしたが、河野多恵子さんと大庭みな子さんにも俄然興味が湧くくらい、3人ともとても個性的。

第1章が河合理智子、第2章が高柳るり子、第3章が森羅万里をメインに取り上げ、それぞれ彼女たちをよく知る人物たちが語り手となって物語を紡いでいきます。

作風や性格はまったく異なる3人ですが、どこかで通じ合っている部分もある。それが「蝶にしか見えない通り道」という、女性作家として生き抜くための一筋の道なのかもしれません。

蝶の道は、“自分だけの道”

そう、良くも悪くも無邪気な人でした。鋭い感で、自分を脅かす存在になるかもしれないと踏んだ女は敵視し、自分の引き立て役になるであろう女には好意をあらわにする。高柳るり子に「大人げない」という概念などないのです。

「3人の女性作家のうち誰が好き?」と聞かれたら、普段の好みだとクールビューティーを思わせる河合理智子先生なのですが、本作ではすっかり高柳るり子先生に夢中になってしまいました。

高柳るり子は、ひとたび作品から離れると、自分以外の女流作家の悪口を言う、「女学生みたい」と評されるような人。河合先生とともに文学賞の審査員となってからは、河合先生が推す候補者にバツを付け、河合先生がバツを付けた候補者に丸を付けて大絶賛。親しい男性作家たちからは「るりちゃん」とかわいがられる存在でもあります。

現実にいたらあまり良い感情を抱けない人物のはずなのに、読み進めるうちに、作中の男性作家や編集者たちと同じように、どこかいとおしく思えてきました。昔なじみの男性作家の死後、まったく関係のない近所の墓地に向かうエピソードには、移動中にもかかわらず思わず声を出して笑ってしまいました。

「墓地を通って行きましょうよ。ちょうどお墓がより取り見取りだから、純ちゃんのために見つくろって手を合わせるわ」
(中略)
見知らぬ人の墓を拝んでどうするんだ、と呆れながらも、俊は後に続きました。高柳るり子は、信じがたいことに、時に柏手を打ちながら、墓から墓へと移動して行くのでした。
「あー、これは、しんどいわあ。年寄りの冷や水ね」

お墓がより取り見取りって(笑)。このお墓参りのラストも、思わずキュンとしてしまうので、ぜひ読んでいただきたいです!

今なら「炎上しそう」と感じるようなエキセントリックさも、なぜか憎めない。むしろ、もっと自分もるり子さんのように素直に振る舞ってもいいんじゃないかと、勇気すらもらえました。

人間臭さ、不健全さ、見かけとは違う内面や作品――そうしたものは時に他者をとてつもなく惹きつけると再確認できるセリフを引用し、本日はここまで。

「人間臭くていいじゃないの。私は大好きよ。どんな作家も、多かれ少なかれ、そういう部分を持っている筈よ」

「健全なんて、作家にとっては一番どうでも良いものなんじゃない?」

「だから、おもしろいんじゃない? 見かけによらない女、そんな女が見かけによらない小説を書く。だから、私たち、編集者稼業が止められないんじゃない?」
 賛成! と誰かが叫び、皆でシャンパングラスを合わせました。

***
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この記事を書いた人

企業にて、産業翻訳の翻訳、チェック、ディレクションに従事。
フリーランスにて、映像翻訳と読書ブログ運営。
観劇と、ヨガ・ピラティスが好き。

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