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【読書記録93】『丘の上の洋食屋オリオン』

こんばんは。
水曜日は、小説、エッセイ、漫画本です。

美味しい料理の本には、幸せになる魔法がかかってるんだから。

――嫌なこととか悲しいことがあるときほど、しっかりごはんを食べないといけないよ。
いつの間にかテーブルの前に立っていたくるみさんが、あたしにそう言った。顔を上げると、くるみさんはにこりと笑う。
――美味しい料理には、幸せになる魔法がかかってるんだから。

最近、温かくて美味しそうな料理が登場する小説を読むのが好きです。つらい出来事や、どこかもやっとすることがあったとき、丁寧に作られた料理を食べることで、じんわりと心と体が温まっていく。そんな描写を読んでいると、自分までその料理を味わったような気分になります。丁寧に料理を作る描写や、お店を清掃して整えていく描写も、もう少し家事を丁寧にやってみようかなという気にもしてくれます。

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本日は『丘の上の洋食屋オリオン』を紹介します。その名の通り、丘の上にある〈洋食屋オリオン〉では、シェフのくるみが、義理の姉でホールとスイーツ担当の真湖(まこ)、菜園の世話もするアルバイトの蒼(あお)くん、看板猫の黒猫のネロとともに、祖母のあずきさんから受け継いだ味を守っています。

群像劇だからこそ味わえる、それぞれの物語

章ごとに語り手が変わる群像劇の形式も、この物語の魅力の一つ。舞台好きとしては、登場人物それぞれの視点から〈洋食屋オリオン〉を見つめ、店とその料理を通じて紡がれる物語を味わえるのも嬉しいポイントでした。

・開店準備
・第一話 世界で一番のトマトソースオムライス
・第二話 わたしとカリカリパンチェッタのカルボナーラ
・第三話 過ぎた日の煮込みハンバーグ
・第四話 きみとベビーリーフのシーザーサラダ
・第五話 三つ星のレシピとぼくらの話
・閉店準備

「開店準備」と「閉店準備」はくるみ、第一話から第四話は〈洋食屋オリオン〉を訪れたお客さんの視点で語られます。どの話も好きで一番が決められない。そして、第五話は……誰の視点なのかは、読んでからのお楽しみ!

仕事のテーマは、意外と伝わる

おばあちゃんから〈洋食屋オリオン〉を受け継ぐとき、くるみは初めて「オリオンのテーマ」を知らされます。

「そう。オリオンはね、寂しくならないためのお店だったの。一番目はね、くるみのお母さんたちが寂しくないように。二番目はおばあちゃん自身が。それから、オリオンにやってくるお客さんたちがみぃんな寂しくないように。心がほっとして、温かくなれる料理を出すの。それがオリオンのテーマ

料理の味だけでなく、オリオンのテーマそのものを大切に守り続けるくるみ。その姿勢は、訪れるお客さんにも自然と伝わっていました。

〈洋食屋オリオン〉は飲食店ですが、業種が違っても、仕事をするうえでのテーマやポリシーを大切にしていれば、きっと思いは伝わるのではないでしょうか。そんな期待を込めて、第二話の主人公のモノローグを引用して、本日はここまで。

――帰ってきたなって思うんだよね。
いつか聞いた言葉の意味を、ようやく知れたような気がする。オリオンの料理を食べると、体の内側に着たぶ厚い衣を脱ぐことができるのだ。なぜだろうか、それはわからないけれど。経験を重ねるたびに何重にも纏っていたものの奥にある、芯のような自分に、戻れるような気がする。

***

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この記事を書いた人

企業にて、産業翻訳の翻訳、チェック、ディレクションに従事。
フリーランスにて、映像翻訳と読書ブログ運営。
観劇と、ヨガ・ピラティスが好き。

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