こんばんは。
水曜日は、小説、エッセイ、漫画本です。
眠れない夜にも開いている店
「いつでもお待ちしています。ここは朝までやっていますから」
本日は『キッチン常夜灯』を紹介します。夜間に常に灯される灯火を店名にした「キッチン常夜灯」は、夜9時から朝7時までが営業時間。そんなフレンチビストロでの物語です。
近いようで遠い世界が、遠いようで近い世界に
本書の主人公はチェーン系レストラン「ファミリーグリル・シリウス」浅草雷門通り店で店長をしている南雲(なぐも)みもざ。自宅マンションの火事により会社の「倉庫」と呼ばれる以前は社員寮だった場所へ一時的に身を寄せます。店長としてのプレッシャーやジレンマ、火事による喪失感に悩んでいたみもざは、ある日「キッチン常夜灯」へ。そこで働く城崎シェフとソムリエの堤さん、常連客と触れあっていくうちに、といったストーリーです。
美味しい料理と温かい人たちにみもざが少しずつほぐれていくのにホッしつつも、個人的にドキッとしたのはみもざが時折見せる「同業者としてのコンプレックス」でした。同じ料理を提供する店で、「シリウス」はチェーン店、「キッチン常夜灯」は個人店。このビストロが大事な存在になって憧れるなかで自分の仕事に疑問を感じているのではと感じる描写があったのです。
これは翻訳でもあるなと思ったのでした。ジャンルだったり、案件や作品で自分よりも他の翻訳者の方が・・・・・・と憧れを越えて嫉妬したり卑下する気持ちになってしまうこと。
それでも、みもざは城崎シェフや堤さん、常連客や「倉庫」の管理人である金田さんとの交流を通じて、近いようで遠い世界を、遠いようで近い世界にとらえなおすことができ、自分がいまいる場所について前向きに肯定しはじめました。
優しさや思いやりは人から人へと流れ込んでいくらしい。それを「キッチン常夜灯」が教えてくれた。ならは、私もそうしたい。私の職場はほぼファミレスだけど、人を料理でもてなす空間だということは「キッチン常夜灯」と何も変わらない。
なんだ、私、いい店で働いているんだ。
いつもあくせくと忙しく動き回っていた私が、こんなふうに思えるとは自分でも信じられなかった。
同じように「近いようで遠い世界」だと複雑な気持ちを抱く対象がいる方には一度読んでいただきたいです。
時には夜でも、身体や心に栄養を
本書では美味しくて温かそうな料理の描写がたくさん。朝型になりたかったり、ダイエットも気になったりするけれど、時には夜でも身体や心に栄養を入れるのもいいなと思わせてくれます。
それに料理は、常夜灯での本格フレンチや朝に出される味噌汁とおにぎりだけでなく、シリウスでのチェーン店らしい洋食、シェフに勧められてみもざが自炊した味噌汁、金田さんからもらったインスタントのお味噌汁まで。
「キッチン常夜灯」のような店にいつか出会いたいと思うだけでなく、既に知っているチェーン店にも行きたくなる、自炊もしたくなる、なんならインスタントでも後ろめたさなく前向きに美味しくいただけるようになる、そんな即効性も魅力的な一冊でした。
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残すはエピローグだけとなった時、仕事帰りにちょっと外食しつつ読了。楽しくて美味しかったです♪

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