こんばんは。
日曜日は、自己啓発本・ビジネス本のシリーズでお届けします。
クリエイティブな仕事は徹夜がつきもの?
皆さま、徹夜されますか?フリーランスはもちろん、会社員も在宅勤務が浸透したいま、翻訳業界の夜型比率はますます上がっているかもしれません。私もまた、朝型・朝活に長年憧れつつも、依然として夜型な人間です。
体質など事情などもありますが、意識のどこかに刷り込まれた「クリエイターやアーティストは夜型が多い」というイメージも、夜型人間の拠り所ではないでしょうか。
「0→1で何かを生み出す」クリエイターと、「1を別の言語でも出来るだけ1に近似させる」翻訳者は別物ではあるものの、夜の方がアイデアややる気が出るのではないかと期待してしまう翻訳者も、少なくはなさそうです。
ですが、自分も周りも徹夜はせずに会社員のようなスケジュールで働き、高いパフォーマンスを発揮しているクリエイターもいるのです。本日はそんな、三田紀房さんによるビジネス書、『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術三田流マンガ論 ─三田紀房流マンガ論─ 』を紹介します。Audibleでは、定額聴き放題で聴けます。
『ドラゴン桜』などで有名な漫画家の三田さんは、サラリーマンと自営業を経験した後にマンガ家となったこともありマンガ業界を客観視します。その結果、「アシスタントは9:30~18:30勤務、自身も絶対に徹夜はしない」という「マンガ家の働き方改革」を行いました。
その働き方や創作における考え方は翻訳ビジネスや翻訳作業で参考になる点が多くありました。
私たちは天才じゃない
マンガ家は、締め切りに遅れる人が多い。編集者もそれを許す風潮がある。おそらく「時間をかければいいものができる」という思い込みがあるのだろう。しかし、それはごく一握りの天才に限った話であって、私を含むほとんどの人間にとっては単なる言い訳でしかない。
本書から一貫して受け取ったメッセージは、「自分を含むほとんどの人間は凡人であり、凡人が客にも本来の自分の目的にも誠実であるためには、変なこだわりは捨てて行動する。そうすることで効率的で効果的な作品を生み出すことができる」ということ。
マンガ家にとって一番大事なこと。それは言うまでもなく、マンガを作って発表することだ。(中略)そのために何を優先させるか。マンガ家として、さまざまな場面で選択を迫られたとき、迷わない軸をもっておくことが大切だ。
(この優先順位をもとに、三田さんはデジタルで作画を手伝ってくれる会社へ発注もしているそう!)
そもそも私は、「個性」などというものを信じていない。よく自分の個性、オリジナリティーを見つけたり表現したりすることを人生の課題としている人がいるが、そんなものはそうそうあるもんじゃない。天才と言われたベートーヴェンですら、出発点ではモーツァルトやハイドンから徹底的に学び、そのうえで後世に残る名作『交響曲第九番』を生み出した。
要するに、速く結果を出すことが大事なんだ。あなたが個性を探しているプロセスには、誰も一円もお金を払わない。完成原稿にしか価値はないのだ。それなのに、マンガ家をはじめ多くの表現者が自分の個性を見つけることにばかり力を注ぎ、作品を作ることを忘れている気がしてならない。
個性なんて気にするな!そんなものはなくていい。先人から大いに学び、多少表現をパクってもどんどん原稿を作っていこう。
自分が「あくまでも自分が考える上での品質神話」「個性神話」に執着しすぎて、動きが止まったり鈍くなったりしていないか。改めて考えてしまいますね。
新人時代から沢山のベテラン翻訳者さんの翻訳を見てきて、「とにかく真似るしかない」と隙間時間に写経をしてきました(「写経」は訳文(原文なことも)をタイプしながら学ぶこと)。そんな自分の行動が間違っていなかったのだと嬉しくもなった読書体験でした。
作品解釈の勉強にもなる!
生産性の高い創作活動の秘訣として、マンガのネームづくりのポイントも紹介されています。これはエンタメ翻訳での作品解釈にも役立つのでは。
新連載の企画というと、大体の人は「大きなテーマ」から入りたがる。(中略)私の場合は、「針の穴」理論を使う。大風呂敷を広げるのではなく、針の穴くらい狭いところにテーマを絞り込んで、企画を考えるのだ。
次にやるのは、「対立の構図」をつくること。世間の多くの人々が、好んで対立を見ている。(中略)対立のネタを決めたら、あとは主人公がその対立をどう乗り越え、解決していくかでストーリーを展開させていけばいい。
もう1つ、私が企画を立てるときに意識しているのは、「要素を掛け合わせる」ことだ。(中略)「高校野球」と「お金」。「受験戦争」と「スポ根」。最大限、離れている2つのものを組み合わせる。2つの間にギャップがあればあるほど、マンガに強烈な個性が生まれる。そして、その個性に読者は惹かれるのだ。
よく映像翻訳で言われる「三幕構成」にも通じる話ですね。その作品の「針の穴」は何なのか、何と何を対立させているのか、何と何を掛け合わせているから目新しく感じるのか。改めて、制作者の意図を把握して訳文を考えたいと思いました。
冒頭部分は無料で試し読み(聞き)できます!
テキスト+音声で「はじめに」と1章が無料で試し読み(聞き)できます。
ぜひ「マンガ家」部分を「翻訳者」や自分の職業に置き換えて読んで(聴いて)みてください。
私も皆さまも、今よりもっと健康で、ハイパフォーマンスとなれますように!
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