こんばんは。
水曜日は、小説、エッセイ、漫画本です。
ニューヨークから届いた、徹子さんの初エッセイ集
以前、『続 窓ぎわのトットちゃん』も紹介した黒柳徹子さん。『徹子の部屋』は、視聴していなくても、その番組の存在は日本人なら誰もが知るところですね。

エッセイの醍醐味は、筆者の視点や体験を通じて、読者が共感したり、新たな視点を得たりすることだと思っています。だからこそ、具体的で引き込まれる描写や文体が不可欠です。
徹子さんの文体は、何十年前の話でもつい最近の出来事みたいに感じられます。大人になって改めて手に取って以来、徹子さんのエッセイのファンです。
本日は、『チャックより愛をこめて』を紹介します。『窓ぎわのトットちゃん』よりも前に発売された、徹子さんの初エッセイ集です。当時のニューヨークでの写真がInstagramで人気を集めたこともあり、2019年に「文庫新装版」が発売されました。
「綴方・ニューヨーク」が教えてくれる演技・翻訳の秘訣
徹子さんは、日本の雑誌に掲載するために、ニューヨークから原稿を送っていました。エッセイ風の「アルファベットだより」もあれば、小さい女の子が時系列に沿って書いたような「綴方・ニューヨーク」部分も楽しいです。
「綴方(つづりかた)」は、子どもたちが文を書く練習として、昔の日本の学校でよく使われていた用語です。「作文」と言い換えるとわかりやすいでしょうか。この小さい女の子、なんだか後のトットちゃんに通じるものがあるような気がします。
そして、舞台好きとしては、徹子さんがニューヨークで受けた演技のレッスンに関する話も興味深いです。エッセイの方でも、中高年のベテラン俳優になってからも皆演技のレッスンを習いにいくという部分があり「そのレッスンがみたい!と思ったのですが、綴方の方で小さい女の子がちょこっと内容を教えてくれます。
カーネギー・ホールという、えらい音楽をやる先生たちの出る建物の後ろに学校はあるのですが、そこで私は週一回、演技のお勉強をしています。先生の名前は、メリー・ターサイといって女のおばさんですが、とてもいろんなことたくさん知っていて、私は尊敬しています。
いろんなことといっても、演技のテクニックのことだけじゃなくて、この世の中のいろんな出来ごと、例えば、お姉さんがお兄さんに捨てられることとか、お母さんは息子を気に入ってるのに、息子は逃げ出したがっていることとか、お兄さんが、よそのお兄さんを好きになることとか、また、お芝居に、ニューオーリンズとか、ブルックリンなんて場所の名前が出てくると、とてもこまかく、そこがどんなところか頭に絵が描ける人で、どんな小さいセリフでも、必ずこういったイメージというのをつかまえていいなさい、とみんなにしつっこくいいます。
「訳者は役者」にも通じることですね!
38歳で留学を決めた理由と、その後の思い
1971年というまだ留学はとても珍しかった時代に、テレビや舞台で地位を確立してから38歳でニューヨーク留学を決意した徹子さん。本書の「文庫新装版おわりに」では、85歳の徹子さんが、その当時を振り返っています。
私にとっても、皆さまにとっても、徹子さんにとってのニューヨークのような経験ができることを願って引用しつつ、本日はここまで。
あの時、本場のニューヨークで演劇の勉強をしたいと思って、思い切って留学を決めたけれど、理由はそれだけじゃなくて、働きだして十五年が瞬く間に過ぎ去ってしまったから、この辺で一回立ち止まって先のことも考えてみなければと思った。私はその時も舞台がとっても好きだったんですけど、これから私はいい舞台女優になることが果たしてできるんだろうか、って思ってたのね。
若い時ってやっぱり悩みが多くてね。こんな風でいいのか。もっと才能があればよかった。もっとキレイだったら。もう、それはいろんなことを考えてしまうものですよね。無いものを数えたり、人と自分を比べたりするのは、無意味なことだって今はわかるけれど、昔はわからなかった。
あの頃、レギュラー番組もたくさんあって、休みなくずっと動いていて、悩みはあってもそれをきちんと考える余裕がなくって目の前のことで精一杯。それで、思い切って仕事も生活も一度全部リセットして、日本からニューヨークに居場所を変えてみたんです。
(中略)
ニューヨークにいた一年間は、私にとって何だったのかなあ、何かの役に立ったのかなあって、日本に戻ってしばらくしてからも考えました。そして、何十年も経った今になって、そのことをもう一度考えてみても、やっぱりあの時ニューヨークに行ってよかった、とてもいい経験だったなって、心からそう思います。
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