こんばんは。
金曜日は、翻訳に関する本です。
「絵本のとりこ」になる翻訳教室
以前に、絵本に興味はないけれど、簡単そうだから絵本の翻訳をやってみたい、という人が教室に来たんですよ。でもその人は、今ではすっかり絵本のとりこになっています。私は「あらまあ」なんてさりげなく言いながら、実はしめしめとほくそ笑んでいます。
本日は、『〈新装版〉絵本翻訳教室へようこそ』を紹介します。
私自身、映像翻訳を学んで、「絵を見て、字数の制限を意識しながら訳すことの難しさ」を感じています。
なので、よもや絵本の翻訳が簡単そうだとも思ってはいなかったのですが、本書を読んで絵本の翻訳の奥深さに認識の浅さを感じ、なにより「楽しそう!」という感情が先立ちました。
あとがきで「おしゃべり文体」と評されているように、絵本の翻訳者である著者・灰島かりさんの文体は、まるで翻訳教室に自分も生徒として参加しているかのようなライブ感を味わえます(影響を受けて今回は読点多めかも(笑))。
さらには、生徒さんの訳に対して、いいところをまずしっかり褒めているのも、なんだか嬉しい気分で読み進められました。生徒さん達が年齢もバックグラウンドもバラバラなのも翻訳教室をさらに盛り上げています。
そして、題材となったイギリスの絵本作家であるシャーリー・ヒューズのAlfie Gives a Handは絵もお話もかわいらしく、それでいて訳すには奥深い作品! シャーリー・ヒューズの他の作品も読んでみたくなりました。
読み進めるうちに、確かに「絵本のとりこ」になっていく“翻訳教室”な一冊です。
奥が深い! 絵本と絵本翻訳
本書には、絵本の奥深さ、絵本翻訳の奥深さがたくさん。ひとつだけ実例を引用します。
Alfie Gives a Handで、たぶん4歳の主人公・アルフィーは、おともだちのバーナードに、彼の5歳のお誕生日会へ招待されます。バーナードに会ってプレゼントを渡そうとする場面です。
原文:“Happy birthday!” Alfie remembered to say, and he gave Bernard his present.
生徒(四谷さん)の訳:「おたんじょうび おめでとう」とアルフィーはわすれずに言うと、もってきたプレゼントを、バーナードにわたしました。
間違ってはなさそう。ですが、その後の著者の解説がこちら。
~横道にそれましたが、四谷さんの訳し方は正しいです。ただ私はここをもう少し強調したいと思いました。なぜかと言うと、ええっと、この文章ですが、いったいどうしてここに出てきたんでしょうか?
四谷「『おたんじょうび、おめでとう』と言いなさい、とママに教わってきて、それを忘れなかった、という意味だと思います」
そうそう、そのとおりです。たぶん「バーナードに会ったら、何て言うの?」なんてさんざん練習をしてきて、それを忘れずにちゃんと言えた、そういうことなんだと思います。このニュアンスを伝えたいので、私は「アルフィーはちゃんと言えました」として、ここで区切りました。
文章を読むというのは、その文が含んでいることを読み取ることなんですね。この文章がなぜ出てきたのか、その由来というか、背景に思いを馳せてください。
短い文章でも、もしかしたら短い文章だからこそ、含んでいる意味や背景の広がりを感じて引き込まれた解説でした。
最近はKindle Unlimitedでも絵本が読めるようになったんだなと思っていたところ。これは絵本を読みたい欲をグッとあげてもらった!
翻訳のコツは、「ブンチッチッチ、ブンチッチ」
「ブンチッチッチ、ブンチッチ」。これを聞いてすぐ意味が分かった方がいたらすごい! これは著者があみだした、音読を交えた訳文のブラッシュアップ方法のこと。
ところで、絵本の文章は、声に出して読まれる文章です。ですから耳から聴く音が、大変重要なんですね。この耳から聴いて快い文章を作るコツというのがありますから、皆さん、覚えてください。
コツは「ブンチッチッチ、ブンチッチ」で、「ブン」は文、「チ」は口の「チ」です。つまり文を1行書いたら、それを3回声に出してみる。また書いたら、また2回声に出してみるという意味です。
自分で何度も声に出してみるという単純なことなんですが、ぜひ実行してください。たいてい家族に不審がられますが、めげずにチッチッチとやってください。まずは自分の口から出たときに快い文章を探して、それを覚えることです。
読み聞かせや、自分で頑張って読んでいく行為がつきものの絵本にのみの話とせず、絵本以外の翻訳でも「自分の口から出たときに快い文章」は意識したいですね。
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