こんばんは。
水曜日は、小説、エッセイ、漫画本です。
やっと観るので読んでもみた
ミュージカル『ウィキッド』の映画化作品『ウィキッド ふたりの魔女』はご覧になりましたか? 私は先週ようやく観てきました。
実はこの『ウィキッド』、私にとってはちょっと特別な作品。子どもの頃に九州人が誇る(!)いまはなき遊園地・スペースワールドで上演されていた野外劇を、たまたまチラッとだけ観たのが最初の出会いでした。
当時は観劇の心づもりもなく、あらすじも知らず、いきなり生で現れた緑の人が怖くて……。大人になって上京し、観劇が趣味になっても「いつもやっているし、いつか」と後回しにしていたんですが、今回の映画化で「よし、まずは映画!」とようやく本腰を入れることに。
そしてせっかくならと、なかなかの長編でしたが原作にもチャレンジしてみました。
ということで、本日はグレゴリー・マグワイアの原作小説『ウィキッド』を紹介します。
結構違う、原作の世界
原作を読んで分かったのですが、ミュージカル『ウィキッド』はかなり翻案されていました。
たとえば、緑色の肌をした主人公・エルファバはミュージカルと映画では2人姉妹ですが原作では3人兄弟だったりします。そして、ミュージカルや映画では「学園一の人気者!」なガリンダも、原作では生まれの身分やスクールカースト的には「中の上か、上の下」くらいの存在。
登場人物たちの恋愛や結婚の相手が違ったり、ミュージカルには登場しない子どもが生まれたりもしていて、結構あちこち違いがあります。
そして、『オズの魔法使い』という圧倒的に多くの人が知っている物語が土台になっているからか、原作はかなり多層的。政治、差別、階級、性別、宗教、様々な要素が含まれています。
シェイクスピアの有名すぎる戯曲『ハムレット』を下敷きにした『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』がそうであったように、抽象的だったり解釈がしづらい箇所もあり、「翻訳、大変だったろうな……」とも感じました。
そして、性的な描写や表現が多いのにも面食らってしまいました。舞台や映画を観たお子さんが「本も読んでみたい!」と言ったら、ちょっとペアレンタルコントロールを検討した方がいいかもしれません。
そんな一筋縄ではいかない原作ですが、だからこそ味わいがあるとも言えます。印象に残ったセリフをひとつだけ。
「…自分が悪者だって言う人間はたいてい、僕たちとどっこいどっこいなんだ」ボックはため息をついた。「気を付けないといけないのは、自分が善良だとか、ほかの人たちよりまともだとか言う人間だよ」
「Animal」と「animal」、訳し分けどうする?
『ウィキッド』には、人間と同じ言葉を話す動物たちが登場して、その存在が社会の中で排斥されていく描写があります。
今回、私はAudibleでこの作品を耳から読書したのですが、その言葉を話す動物たちは「かっこつきの動物」と読まれていました。
気になって原書と日本語訳もチェックしてみたところ、英語の原書では「Animal」と大文字表記。言葉を話さないただの動物は「animal」と小文字で区別されています。
それに対して、日本語訳では〈動物〉と山括弧〈〉をつけて訳し分けていました。
版 | 表記 |
原書 | Animal |
日本語訳書 | 〈動物〉 |
Audible | 「かっこつきの動物」 |
たとえば、映画にも登場するヤギのディラモンド教授は、英語ではThe Goat、日本語訳では〈山羊〉、Audibleでは「かっこつきの山羊」といった具合です。
こういう訳語や読み方って、ほんとに難しいし、工夫が詰まっているんだなあと改めて感じました。
翻訳者さんやオーディオブック制作チームが、どんなふうに話し合って表現を決めたのか、いつかその裏側をのぞいてみたいな、なんて思ってしまいました。
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