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【読書記録45】『蘭学事始: 現代語訳と写真でひも解く』

こんばんは。
金曜日は、翻訳に関する本です。

江戸時代の翻訳奮闘記

本日は『蘭学事始: 現代語訳と写真でひも解く』を紹介します。

「日本最初の本格的な西洋医学の翻訳書」と言われている『解体新書』の翻訳作業における奮闘を、翻訳メンバーのひとりだった杉田玄白が綴った『蘭学事始(らんがくことはじめ)』。

原書は青空文庫にて公開されています。本書は現代語訳版でKindle unlimitedの読み放題タイトルです。もっと親しみやすい形で触れたい方には、以前紹介した漫画『風雲児たち~蘭学革命篇~』とオススメです。

『解体新書』から考える翻訳プロジェクト

翻訳者・翻訳チェッカー目線でも、翻訳ディレクター目線でも、本書で語られている苦労や考え方、衝突は共感するところがたくさん。福沢諭吉が涙したというのも納得です。

医師たるものまず第一に、臓器の構造やその形や本来の働きを知らないでは済みません。その内容を知って、互いに医療の助けになるようにぜひしたいというのが、私のこころからの気持ちです。

この志を胸に翻訳を急いで、なるべく早くその大綱を人の耳にもとまり理解しやすくして、従来の医術が心得としてきた点と比較して、すみやかに悟らせることを第一義としました。

(中略)

ですから、思いもよらないほどいろいろと判明した現時点から見ると、さぞかし誤解も多いことでしょう。しかし、事を初めて唱えるときは、あとから非難を受けるような狭い了見では何もできません。

翻訳プロジェクトの目的意識の強さを感じますね。翻訳者目線では短納期はツラいところもありますが、なぜソースクライアントはスピード感を重視するのかのヒントにもなりそうです。

それにしても、この世に前野良沢という人がいなかったら、この道は到底開かれなかったでしょう。かつ、一方では私のように素意大略(おおまかで大ざっぱなこと)の人間がいなければ、この道がこれほど速かには開かれなかったでしょう。

翻訳作業という深い海に潜る人と、舟を動かす人。両方の存在がいてこそプロジェクトが動くんだと改めて感じたり。個人だと両者の素質をある程度待ち合わせたいですね。そして、両者はリスペクトし合う関係でいたい。玄白が良沢について語ったように、私も感謝の気持ちを表現していこうと改めて思いました(お取引先の皆さま、いつも本当にありがとうございます!)。

花咲くときを意識する

平均寿命が30歳台の江戸時代、玄白は83歳まで存命で、蘭学の成長まで目撃しました。

かえすがえすも、私はまことにうれしいのです。この道が開かれれば、百年後千年後の医者は真の医術を修得し、それが人々の救済に大いに役立つと思うと、自然に手足が動き小躍りする気持ちです。幸い私は長寿で、自分の知る蘭学が芽吹いたときから今のように花咲くときまで、この目で見ることができるのは、わが身に備わった幸せばかりとはいえません。よくよく考えますに、何よりもこの世が太平だったからこそ、可能だったのです。(中略)

今後こんな長文を書けそうもありません。生きているうちの絶筆と考えて書き綴りました。前後しているところはよいように訂正してください。うまく修正し書き写したならば、わが子孫たちにこれを見せて欲しいものです。

新たな学問ほどでなくても、自分の翻訳の完成形や、それによる影響を見るのは嬉しいもの。翻訳分野によっては手元を離れて完成や目的達成するまでにかなりの時間がかかるものもありますが、改めて自分が関わる翻訳プロジェクトの最終目的を意識したいなと思いました。

そうすれば、玄白みたいに小躍りしたくなるかも!

***

本書が気になった方は、こちらから購入できます。
投稿時点では、AmazonではKindle Unlimitedの読み放題タイトルです。

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この記事を書いた人

企業にて、産業翻訳の翻訳、チェック、ディレクションに従事。
フリーランスにて、映像翻訳と読書ブログ運営。
観劇と、ヨガ・ピラティスが好き。

(このサイトはアフィリエイト広告を掲載しています。)

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